『用心棒』  黒沢明 1961

いまさらのきわみですけど、三船のすごさを強く感じるわけです
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映画に目覚めてからずっと観たいと思っていたのに、ずっと貸し出し中で観られずにいた一本。ようやく観ました。『花よりもなほ』の次、時代劇を立て続けに見たのですが、いやはや黒沢明が活躍したころの時代劇というのは、妙な感傷もなくていいですね。今の時代劇というのはおしなべてなんというか、いい話みたいな感じにするじゃないですか。前回の『花よりもなほ』はその最たる例のひとつですけど、2000年期に入ってからの時代劇は、夫の武士がいてそれを妻が支えて云々、うるうるみたいな。そういうのが好きじゃない僕なので、こういう『用心棒』のような話は実に好ましい。

桑畑三十郎にはちょっと笑ってしまいました。『椿三十郎』はこの後に撮られているんですね、僕は『椿』が先で、自作のパロディをしたのかと思って笑ってしまったんですけど、この桑畑のほうが先なのでした。『椿三十郎』といえば織田裕二がありましたが、ちょうど今の織田裕二とあのころの三船は同い年くらいなのですね。いやあそうなると、三船がいかに格好良かったか、いかに逞しかったかということをまざまざと知らされるばかり。この『用心棒』においては特に、まあ『椿』もそうですけど、三船の格好良さがいかんなく発揮されているため、惚れ惚れします。やっぱり風格がとてつもないんですね。しかもこれより前の時代の1955年に、あの『生きものの記録』の老人を演じているわけです。この『用心棒』の六年も前、三十五歳のときにですよ。そんな役者はもう日本には皆無です、いや、世界にもいないでしょう。娘の三船美佳がその夫と一緒にけらけらテレビで笑っているのを見ると、今昔併せ見て、時代の退行というものを感じてなりませぬ。三船敏郎が見たら泣くでしょう。

この映画ではっとしたのは、その三船がぼこぼこにされるシーンです。『蜘蛛の巣城』では壮絶な死を遂げていましたが、あのように格好悪いやられ方をしているのは新鮮でした。ほかにもあるかもしれませんが、たぶんそれは僕がまだ観ていない作品でしょう。あれがいいんですね。『七人の侍』でも『椿三十郎』でも、三船はいつも強くて格好よい。でもその三船がああやってぼこぼこにされるのを見ると、それはそれで映画として実に面白いわけです。で、ぼこぼこにされて、ほうほうのていで飯屋の親父のところに逃げ込む。この後がいいですね。死体を運ぶ桶の中に担がれていくのですが、その中から強気に怒鳴り始める。きわめてキュート。桶の中から、やばい状態にあるのに外の状況を聞きつけ、「見物するから止まれ」とか言ってみたりするあれは絶品。ああいうのって、今、ないんです。今の映画で同じようなことをしたら、もっと恐る恐るやると思うんです。「ちょっと見てみたいんだけど、なんとかなるかなあ、いや、無理だったらいいんだけど」みたいな弱気な感じになるはずです。時代が繊細さを身につけたせいで、ああいう無頼で常に強気な侍の姿というのは描けなくなってしまいました。これはとってもとっても残念です。

それで言えば、一組の親子を救うシーンもそうです。今同じことをやって御覧なさい。絶対もっと心優しいキャラクターにしてしまいますよ。どうでもええような子どもとの会話のシーンを入れてみたりね。そういう愚は冒す気配すらない。これは非常に大事な場面だと僕は思うのです。なぜかというと、三船の役柄自体がそういう、現代映画にあるような叙情性を否定しているから。三船はとらわれの親子の、あの父親のような人間を嫌っているんです。早く失せろってなもんです。だから絶対に、あの親子とまともに口をきこうとはしない。三船のあのキャラクター性というのは、現代の映画に観られるような妙に生暖かい、「感動の人間ドラマ」みたいなものを明らかに否定しているんです。素浪人の格好良さとはつまりそのようなところにある。決して表には出ない、すべてを行動だけで示す、嫌われるとか好かれるとか格好いいとか悪いとかそういう価値観のすべてを排した場所に、あの役柄は生きてくる。あの、乱暴な優しさが今の映画からは失われている気がしてなりません。

他の役者で言うと、山田五十鈴がいいですね。ものすごく性格が悪そうな女主人。あの女主人と、丑寅方のぼんくらとが三船を取り合ったりするシーンなど、すごく愉快。仲代達矢の危ない感じもいいし、ジャイアント馬場みたいな人もいい。そういういかにも一筋縄ではいかなそうなやつらの間をかいくぐり、ぼこぼこにされつつも最後に勝利していく、それまでの筋書きはやはりすごくいいじゃないですか。あのー、叙情に逃げていないというのが好ましいんです。すべて三船の無頼漢ぶりの中でうまくまわされていくあの筋立ては、叙情的に夫婦愛だの家族愛だのを描きたてるものよりもはるかに見ていて気持ちがいいです。ならず者ぞろいのばくち打ち集団二組を、腕力と計略ですべて動かそうとしていく、あんなに格好良すぎる役柄に、ばっちり三船がはまって、これはやはり傑作になるわけです。場所の風情があるのはいわずもがな。
 今は『椿三十郎』とか、次の『隠し砦』とかありますが、よく言われることですけど、リメイクには無理があるんです。それはね、黒沢明という巨匠の作品を云々とは別に、やはり三船敏郎という絶対的なまでにすごい役者の出てくる作品を、今の役者でやるということに無理があるんです。ジャニタレでどうするっていうのですか。そんなことをするくらいなら、一本でも多くの黒沢作品(当然もともとの黒沢作品を)をテレビで流してほしいですね、ってまあ、そんなことを言ってもどうしようもないんですけれども。この辺で。
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by karasmoker | 2008-02-20 21:58 | 邦画 | Comments(0)
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