『ミスト』 フランク・ダラボン 2008

 ラストは別にすごくないのですが、そこまではとてもよいです。

 『ミスト』は良質なハリウッド映画でした。
 正体不明の霧に襲われてスーパーマーケットに閉じ込められる、パニック系の映画ですが、「人々こそ恐怖」というのをちゃんと描いている点に好感が持てます。正体不明の怪物を出すと、恐怖の主眼がそちらに持って行かれがちなのですが、周囲の人々が襲いかかる部分をちゃんと描いているのが、とてもいいと思います。その中軸にあの宗教おばさんを据え、対立と混乱を描き出している点が好ましいです。みんな一丸となって事に当たる、みたいなことってでけへんやん、っていうことをきちんと描いていました。

緊張と緩和も適度なリズムで波を持っているし、グロテスクな部分の描き方もよかった。たとえばあの虫に刺されて、若い女性が死んでしまうんですが、その際の描写として、顔をめちゃくちゃに腫らせるんです。この辺のさじ加減がいいですね。大袈裟にすぎず、綺麗すぎず、ああ、あれに刺されたらああなりそうやなあ、という感じなんです。薬局での混乱もいいし、繭に包まれた人の悲惨な描写もいい。細かいところの描き方が好きですね。最初、タコの脚みたいなものに若者がやられるのですが、そうかと思いきや虫や恐竜のような生き物が出てくる。何かようわからん巨大なやつも出てくる。特定の怪物イメージを植え付けようとしていないところなども、好ましいです。かゆいところをきちんとかいてくれています。霧に包まれてしまった舞台設定もいいと思いますね。周囲を霧に包み、なくしてしまうことで、下手にあれこれ描くよりも観客の想像力をくすぐる。奥行きがない、という奥行き。それはつまり闇の相似形で、闇の怖さというのをうまく変形しているのですが、真っ暗なホラーとは別種の味わいというのがそこにはあります。

 さて、この映画はラストがもてはやされますが、その分ぼくの中ではハードルが上がってしまった。あまり「衝撃のラスト!」みたいなことは言ってほしくないですね。漫才やコントで言えば、「すごいボケが炸裂!」と言われてしまっているようなものですから、その分構えてしまって、正しく味わいきれない。中にはそれでもハードルを越えてくる映画というのもあります。『SAW』シリーズの初期がそれですね。2のオチには驚かされました。この『ミスト』の場合、オチは別にすごくありません。最後のほう、「さあ、どう片をつけるねん?」と思いながら観ていましたが、十分に予測範囲内というか。いや、というか、一番わかりやすい終わり方じゃないですか。

あのー、ひとつのハリウッドルールというか、ハリウッドマナーというか、ハリウッドはハッピーエンドにするじゃないですか。それをしていないという点ではいいんです。でも、すごいオチではまったくない。そりゃあハッピーエンドを信じ切っていればそうなるかもしれませんが、そしてハリウッドマナーに毒されている人ならそう思うかもしれませんが、ぼくは別にそうではないので、オチがすごいとは全然思えない。確かにハリウッドとしては冒険しています。善良な老人を死なせる、勇敢で懸命な男オリーをあっけなく死なせる、子供を最後死なせる(まあ子供の部分はあえて見せず暗示的にしているだけですが、)というのはハリウッドとしては冒険でしょう。でも、それはあくまで、ハリウッドとしてはよくやったな、ということであって、それ以上のものではないと思うんです。しかもそれでいえば、スーパーマーケットの客の中に、あの主人公の子供以外、子供が一人もいないのはおかしいです。そこは結局、あの子以外に子供を出してしまうと、宗教ばばあのシンパとの絡みでややこしくなるからでしょう。ややこしくしてくれたほうがいいんですが、そこはできない。ハリウッド的限界。ラストはむしろ文句の付け所ですよ。「もう少し待てよおまえら、そない早く自殺に踏み切らんと、ぎりぎりまで待ってみようくらいのことをせえや。弾丸あるならまだ戦いようも多少はあるやんけ」という部分なのに、あっさり死んでしまう。どうしてラストを褒めるのでしょう。褒めるべきはむしろそれ以前の部分ですよ、この映画は。

 だから総じて、「すごいオチだ」「衝撃のラスト」みたいなことを言うべきではないんですね。観客は入るでしょうけど、せっかく入ってくれた観客の率直な鑑賞及び感想を阻害します。それを言わなきゃとてもいい映画なのに、と思います。いい映画だと思って観てきたのに、最後がっかりさせられてしまうことになるのです。ただ、全体を通して描き方はいいので、決して悪い映画ではありません。悪いのは、コピーでハードルを上げた配給と広告屋です。
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by karasmoker | 2008-12-20 02:23 | 洋画 | Comments(0)
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