『黒い家』 森田芳光 1999

 演出云々ではなく、大竹しのぶの力が映画を支えています。

 観ながら最初に抱いた印象は「どうも古いな」というものでした。80年代映画の、いわゆる角川映画の感じというか、1999年だからさほど古いわけでもないんですが、10年前よりもっと古い世界の印象がありましたね。でもそれはこの映画にとって結果的に正しいのかもしれないと思います。ホラー的なものに必ずしも映像的新進性は不要だろうと思いますし、古めかしさというのはある種、演劇にとって有用な要素ですからね。この映画における恐怖は宣伝の通り「人間の怖さ」というものでしょうから、古臭さは人間の垢抜け無さ、つまりは人間の格好つけていない生身の部分を表すという点で、よかったのだろうと思います。狙って古くさくしているわけでは、ないと思いますけれど。

 役者で言うとよかったのはなんと言っても大竹しのぶで、それから西村雅彦、町田康といったあたりです。町田康が出てきたのはびっくりしました。役者・町田康を初めて見たのですが、すごい存在感であります。多分役者としてのオファーはかなりの数に上っており、文筆業のために断ったりを繰り返しているはずです。ちょっとした出番だけなのですが、役者を本業としている人よりもいいんです。
 
 西村雅彦もよかったです。頭のおかしい人の役柄なんですが、大竹しのぶのものとは違う狂人ぶりが出ていた。決して悪性の狂人ではないんですね。犬を可愛がったりする優しさがあって、人を傷つけるタイプの狂人ではない。その哀しさと愛らしさが大変によく出ていました。三谷幸喜作品の西村を見ていても思うのは、この人は哀しさと愛らしさを兼ね備えた役柄でその本領を発揮するということ。だから中途半端なテレビドラマ向けの役者では、本来ないはずなんです。トレンディドラマで見かけたとき、つくづくそう思いました。

 そして、大竹しのぶです。これは大竹しのぶの映画です。後半に表出される凶暴さもさることながら、保険の窓口に来るところからして既に狂った感じがあってよいのです。西村の壊れっぷりはわかりやすい壊れっぷりになっていましたが、大竹しのぶはちょっと違う空気でつくられていた。この辺の演出はうまいなあと思いました。演出で言うと、電動こけしが何気ないところでいいんですね。原作を読んでいないのでわかりませんが、たぶん原作にもあるのでしょう。あのアイテムで夫婦生活のなさがわかるし、それでいてあの人間が持っている「性欲」という生の部分が伝わる。そういう演出の上での大竹しのぶの暴走はたまらなくよかった。家での夜の出来事の場面も、大竹しのぶの怖さが出ている。細腕に鉈、というのが怖いんです。太腕とは別種の怖さ。あの場面は大変よくて、内野聖陽の震えすぎには正直首をかしげたのですが、雰囲気としてとてもよい。

田中美里はよくわかりませんね。演技力ではなく役柄として、なんであんな感じなんでしょう。ちょっと一癖つけたかったのでしょうか。どこか病んでいるようなところがあるのですが、別にだからどうだというところもありませんでした。むしろ朗らかな役柄にしたほうが、最後に川辺で抱きしめるくだりが生きたようにも思うのですが。

 細かいところで、どうなのやというのもあるんですけどね、演出においては。あの家での出来事があった後、会社に襲いに来るくだりで、電話モニターの向こうの人物と内野が話をするとき、モニターの向こうに大竹しのぶがいるのがわかります。でも、内野は気づかないんです。なんでやねん、と思いました。目線で丸わかりになるのに、現にあそこまで強烈な体験をした内野がなんで鈍感やねんと。死体は上がっていないという時点で、こらまだまだ油断できないぞ、と思いながら暮らすのではないでしょうか、普通の感覚として。ボウリングの球がトイレに来るのも、何階やねん、というのがありますし。あの後ボウリングの球が階段の上から転がってくるのはどういうわけですか、ぼくにはわかりません。細かいこと言うな、と言われそうですけれど、大事な話で、これは超人的な存在が織りなす超越的ホラーではないんです。あくまでも生身の人間の怖さなんです。 だから怖さ先行型の演出をしてほしくはないんですね。生身の人間が仕掛けてくる生身の怖さがいいわけで、ボウリングが上から来ると、まるで支配的な悪霊がいるみたいじゃないですか。

ただ、ここぞという場面は緊迫感があります。家の場面にしろ最後の取っ組み合いにしろ。ひとつ要らない演出がありましたね。別の役者の綺麗な胸を使ってまで、あれを描く必要はなかったように思う。あれはちょっと笑ってしまいました。なんでやねん、と思って。

総じて言うと、良質なサスペンス映画だと思います。演出の古さ、をどう捉えるかというところに判断の余地はあるものの、大竹しのぶが圧巻であり、それ目当てだけでも観る価値はあると思いますね。
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by karasmoker | 2009-01-19 07:36 | 邦画 | Comments(0)
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