『チームバチスタの栄光』 中村義洋 2008

最近の大作邦画の中では、かなりバランスのいい娯楽映画じゃないでしょうか。

 原作は読んでいません。あくまでも一本の映画としての感想にしたいと思います。

二時間、飽かずに観ることができました。手術場面、つまり事件発生の可能性がある場面を幾度も織り交ぜることにより、物語に緩急がついています。基本的には大病院の中で話が展開され、わずかに外の場面が差し込まれる。これもまた空気感の調節に一役買っていますね。空間限定性はぼくが映画を観るときに重要な概念ですが、空気が分散することなく、手術室というメインステージを据え、なおかつ不定愁訴外来の何も起こりそうにない雰囲気を交えることで、映画にメリハリがついていました。

 役者の働きも良かった。特にいいのは阿部寛で、この人はなかなか面白い人です。高校生時代に大好きだったテレビドラマ「TRICK」の上田を彷彿とさせる演技でした。阿部寛は不思議な役者で、彼との絡みによって他の役者が引き立つのです。今回の竹内結子がそうで、ただの生温かいだけのキャラクターだったのが、阿部寛の登場で一変した。阿部寛はちょっと狂っている感じがいいんですね。この人の狂いぶりは観ていて楽しく、ぼくとしては三谷幸喜作品に出演してほしいと思います。あと、吉川晃司がよかった。吉川晃司っぽくないんです。あれ? 吉川晃司だよな、これ? と思いつつ、別の役者だろうかと思うくらい、吉川晃司っぽくなかった。ロッカーっぽくイキっている彼の印象が強いせいでしょうか。彼の朴訥な演技には小さな感動すら覚えたのです。佐野史郎、田口浩正を外科医役にするところが小憎いです。ココリコ田中、井川遥などはちょっと邪魔でしたが、最近の大作邦画の中ではかなり良心的なキャスティングだったと思います。ちょい役に野際陽子を使うなど、無駄に豪華なほどでした。東宝とTBSが力を入れたのが鼻につくほどでした。

 ストーリー、演出の部分で言うと、「これは殺人事件だ」という阿部寛の断定の部分、その理由が弱いように思われました。わざわざ厚生労働省から出向いてくるわりにそこはどうも弱くて、まあ阿部寛の特異なキャラクターで行ききったように思います。「こいつが言うんだからしょうがねえ」みたいな感じですね。それと竹内結子がいくらなんでもあほすぎた気がします。医者ものという堅いテーマですから、若年層や女性層の集客のためにはああいう手も十分わかりますが、それにしてもあほっぽいですね。「ああ、OLの客を意識した役柄設定やな」というのが透けて見えます。でも、結果的にはよかったのでしょう。あれで竹内による聞き込みのやり方と阿部のそれとが対比され、竹内によるもので医者のキャラクターもわかるようになっていました。

 さて、ミステリーの命であるトリックの部分と犯人の人間性の部分ですが、ここがどうも弱かったように思われますね。快楽殺人という形にしてしまうのは一番楽なパターンですから、その点の深みには欠けました。トリックはというと、うーん、これはミステリーというものをどう捉えるかという問題になりますね。あれはかなり専門的な知識の部類というか、推理が得意で推理小説の犯人もことごとくわかる、という人でもわからないでしょう。知識の問題が大きいです。これをどう捉えるか、です。謎解きの段になってから、「みんなは知らないだろうけれどこういう風にするとこうなるんだよ」と教えられても、それはトリックの開示と言うより、知識の提示なんですね。吉川晃司のところはいいんです。なんであんなことをするのだろう、という疑問が晴らされるわけで、ここは伏線も張ってある。ところが最後の謎解きは、その犯行の過程の一部こそ示されているものの、ある知識がなくてはわからないと思うんです。それなら、もっと早めの段階で、あのことに関する知識を観客に教えてほしい、さりげなくでもいいから示してほしいですね。山口良一が発作を起こした場面で犯人は大体わかりました。でも、トリックはとなるとわからなかった。別に悪いことではないんです。ぼくとしては、ああ、そういうのもありなのね、とわかって勉強になりました。

 大作の日本映画、というとぼくはほとんど期待せずに観るのですが、総じて言えば意外とよかったです。均整なバランスのとれたエンターテインメント映画だと思います。繰り返しますが、原作は読んでいません。あくまで一つの脚本に則った、一つの映画としてぼくは観ました。
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by karasmoker | 2009-02-01 09:30 | 邦画 | Comments(0)
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