『あなただけ今晩は』 ビリー・ワイルダー 1963

 ワイルダーに学びて。 

 原題「IRMA la DOUCE」。
 三谷幸喜はビリー・ワイルダーのフォロワーですが、この作品を観ると、三谷はワイルダーからかなりいろいろぱくっているのだな、というのがわかります。『ザ・マジックアワー』(2008)の守加護の街並みはこの映画の娼婦街に酷似しているし、バーのマスターは『今夜、宇宙の片隅で』(1998)の梅野泰靖の元ネタそのままだし、「That's another story」という台詞は「これは余談だ」と字幕がついていましたが、もろに『王様のレストラン』(1995)の「それはまた別の話」です。『王様のレストラン』でいえば、その最終回のラストシーンで三谷幸喜が登場するのですが、その格好はもろにジャック・レモンの扮装したX卿です(ラストで出てくる謎の人物、という点でももろに同じ)。さて、三谷幸喜を知らないと何のこっちゃという話ですが、知っているとあれこれにやりとする場面に出会います。本当はワイルダーが先なので、三谷作品を観てにやりとするのが正しいのですが。

 さて、映画についてです。パリに赴任した警官ネスター(ジャック・レモン)がひょんなことからクビになってしまい、娼婦であるイルマ(シャーリー・マクレーン)と恋に落ちて物語が駆動します。娼婦街の中心となったネスターはイルマと同棲し始めますが、娼婦である彼女を他の男と寝かせたくないネスターは自分が別の人物X卿になりすまします。これが後々に波乱を招き・・・というようなお話です。

 身分を偽る話といえば、ワイルダーの真骨頂たる『お熱いのがお好き』(1959)が有名です。この仕掛けはそれだけでコメディの大きな柱になりますし、枚挙に暇なく数多の作品で用いられますね。これは映像の強みでしょう。小説では映像ほど鮮やかに表現できないですね。観客の客観的視点を活かせる仕掛けであり、ちょっとしたことでばれかねないという点で、スリルを持続させることができる。ワイルダーコメディは会話にテンポがあるので、身分を偽りつつ会話するときの可笑しみがよく伝わってきます。相手役であるシャーリー・マクレーン。『アパートの鍵貸します』(1960)を観たときはぴんと来なかったのですが、素敵でした。当初は彼女ではなく、マリリン・モンローの予定だった、とあるサイトで読んだのですが、その真偽のほどはどうあれ、なるほどモンローでも今回の役柄はよかったでしょうね。モンローは『お熱いのがお好き』や『七年目の浮気』(1955)、それからハワード・ホークスの『紳士は金髪がお好き』(1953)などで観ていて、コメディエンヌとしての才覚が抜群なのです。モンローはセックスシンボルと言われたり、金髪美人の代名詞みたいに言われますが、何よりそのコメディエンヌ的魅力が大きいのです。

 と、それはまた別の話。
 シャーリー・マクレーンもよかった。憂いのある喫煙姿で、あえて緑というベースカラーを用いたのも味がありましたね。ワイルダーイズム、そしてそれを継承した三谷幸喜演出に共通する要素として、恋愛映画であってもベッドシーンを用いないこと、そしてキスやハグはあくまでコミカルに描写することがあげられます。たくさん出てくる娼婦もとにかく底抜けに陽気な連中であって、決して不潔感もエロチックな感じもありません。今回の映画はX卿に扮したネスターがイルマを買うのですが、それも夜通しトランプをやって過ごすというものになっており、性的な感じを出さず、出してもきわめて薄くしてあります。ここにはワイルダーの矜恃というかこだわりが強く見て取れますね。

 結局ラストにしても、それから物語全般にしても、誰一人傷つけないようにしてある。イルマを取られた男も双子の娼婦をゲットしていますし、ネスターは結局警官に復職できる。なおかつ喧嘩のシーンもコミカルに仕上げており、エロ、暴力、そして「救われない存在」をコメディに不要なものとして退ける、かねてからのスタイルが貫かれています。

 前にも書いたことですが、これはとても格好いいと思うんです。そのこだわりのために、たとえば今回で言えば、やや破綻しているところもあります。X卿殺害容疑のくだりはいくらなんでもリアリティがない。正直言ってありえないような展開になります。その意味でワイルダーはこの作品を「大した作品じゃない。嫌いだ」と切り捨てたのかも知れません(某サイト参照)。ですが、たとえ嫌いであるとしても、先ほどのパラグラフで述べた三つの要素の切り捨ては忠実に守っているのです。何かと言えば殺人だ何だ物騒な話で物語をつくろうとするのが現代の常ですが、それを頑なに回避して配列を行い、ひとつの物語を設計するのはやっぱり、格好いいんです。そこには確かに、人間が持つ根深い業の深さや醜悪さがありません。上品すぎるということもできる。しかし、今回のジャック・レモン演ずるネスターがそうであるように、人間の愚かしくて格好悪いけど格好いい部分、もしくは格好をつけんがために愚かさに陥る人間というものを、きちんと照らしてくれるんです。過激さに逃げないことで、社会の内側にいる人間の、格好悪くて格好いい部分を照らす。これはコメディの役割として大変大きいのです。

 ちなみにワイルダーに関していえば、それだけに留まりません。『情婦』(1957)は狡猾な物語設計を行い、その中でどうしようもなく汚い人間を描いているし、『サンセット大通り』(1950)では毒を効かせるし、個人的にはぴんと来ませんでしたが『失われた週末』(1945)のようなシリアスなものも描いています。まだまだ未見の作品は多いですが、むしろそのことはぼくにとって、先々の愉しみになるのです。まだまだ語っていないことはあるのですが、それはまた別の話。
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by karasmoker | 2009-02-07 08:58 | 洋画 | Comments(1)
Commented by Wonvali at 2015-11-11 03:01 x
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