『道』 フェデリコ・フェリーニ 1954

シーンによっては趣を感じるのですが、全体を通すと印象強くはなかったです。
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振り返るにぼくはイタリア映画というのをこれまでほとんど観てきていません。なぜでしょうか。気づくと手に取っているのはアメリカ映画で、これはまあ近所のビデオ屋にヨーロッパのものが少なすぎる、洋画と言えばアメリカ映画ばかり、というのも要因なのですけれど、イタリア映画にはそこまで惹かれないというのも事実です。それでも強烈なものはあって、パゾリーニの『ソドムの市』(1975)、グァルティエロ・ヤコペッティの『世界残酷物語』(1962)などが(これはイタリア映画と呼んでいいのでしょうか)そうですね。グロテスクさや異常さに傾かない映画で言えばイタリア映画で一番好きなのがロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』(1998)。ことほどさように、ぼくのイタリア映画への造詣はきわめて浅いのであります。

 さて今回の『道』ですが、世界的に高い評価を受けているようですけれども、ぼくとしてはもうひとつ印象に残りにくい作品でした。先々に振り返るとき、ああそういえば昔観たな、くらいの感じになりそうです。フェリーニは最も思い出深い作品と語っているようなのですが。

 ジェルソミーナという女性が大道芸人であるザンパノという男に買われ、その道中の二人の生活を追った物語なのですが、このザンパノは魅力的です。やさぐれた無頼漢っぽさが出ていていいのですが、ジェルソミーナはあまり面白くない。監督のフェリーニの奥さんらしいのですが、この人の味わいがもっと伝わってくれば印象も違ったように思われます。二人の対比を形作る上で、うーん、もうひと味、というのがぼくの感じ。淀川長治は「頭のいかれた女の子」と形容していますが、まあ頭が弱いということですね、その頭の弱さをもっと観たかった。そうするとザンパノとの対比がさらに色濃くなるのですが。
 
 最も印象的で、かつ優れた感じを受けるシーンは、ザンパノが一人の男を打ち殺してしまうシーンです。ザンパノに殴打され、男は車に後頭部をぶつけてしまう。この後男はよろめき、「時計が壊れてしまった」と呟き、数歩進んだ後路上に倒れ、そのまま死んでしまいます。よくある演出なのでしょうか、それともぼくが今まで見過ごしてきたのでしょうか、この演出は見事でした。映画、あるいはドラマを含めてもいいですが、それらの多くは後頭部をぶつけた瞬間に死なせてしまいます。でもこの映画は違っており、死ぬまでにしばらく間があるんです。実につまらなそうに、「時計が壊れてしまった」と呟かせたあのシーンはとても新鮮だった。ああすることで、虚しさがあの瞬間にぎゅっとこもる。格闘と殴打、そこからすぐに死に繋げると衝撃的である分、間が埋まってしまう。この映画はそれを回避しており、実にゆっくりとしたテンポで死に向かわせます。これは素晴らしかった。

 他にも、ちょっと違和感のある、それでも演出の時代性を感じさせる場面がありました。ザンパノとジェルソミーナがある修道院に泊まるのですが、このときザンパノは夜な夜な、修道院の持ち物である銀のハートを盗もうとします。ジェルソミーナがそれを阻むのですが、編集によって結局どうなったのかわからないまま夜が明け、二人は修道院を去ります。現代っ子のぼくとしては、このシーンを観ると、結局盗んだのかどうかを明かして欲しいと思ってしまうし、あるいは盗んだことを何かのエピソードで知らせて欲しいと思うのですが、この後銀のハートを盗んだのかどうかの答えが出ていないんです。伏線の意図的な非回収。これは温故知新と言いますか、なるほどそれはそれでありなのやもしれぬと考えさせられました。物語的な思考に染まると、事件=伏線という構図をつい描いてしまうけれど、伏線という考え方自体がひとつの偏りとも言えるのであり、形によってはエピソードを放り出すのも、そして放り出し続けることでその事件の残滓を人々のうちに漂わせ、その人物のありようを滲ませる手段なのかもしれない、とそんなことを考えました。意味がわからなければすみません。

 ストーリー的な味わいで言うと、ぼくはジェルソミーナに惹かれなかったために、最後のシーンにも感動を覚えられなかったですね。それと細かいことですが、ザンパノの大道芸があれだけというのもちょっと弱いです。もうひとつふたつ、何か欲しい。鎖を体でちぎる、というのだけではどうも。

 いい、という人がいるのはわかります。瑕疵のある作品では全くないので、これはもう、みもふたもないのですが、好みの問題でありましょう。
 
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by karasmoker | 2009-03-27 00:20 | 洋画 | Comments(2)
Commented by 検索できました at 2012-03-02 08:42 x
ぼくも若いころに見てよくわからなかったのですが、歳とって観てみると良さがわかりました。もう少ししてまたご覧になることをぜひ、おすすめします。
Commented by karasmoker at 2012-03-02 23:59
ありがとうございます。
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