『ワイルドバンチ』 サム・ペキンパー 1969

圧倒されるばかりで味わい切れていません。ぼくの許容力不足を感じさせられる圧倒的な作品です。
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 ペキンパーへの名声はもの知らぬぼくの耳にも前々から轟いていたのですが、なかなか観ずにおりまして、やっとこさペキンパー初体験であります。

 ツタヤディスカスで借りたDVDはレコードのA面、B面よろしく両面式になっていました。このタイプのDVDをぼくは初めて目にしました。収録映像は特典含め177分ですが、片面では収まらなかったのでしょうか。物語途中で一度切れてしまうので、そこはやや残念。物語自体は二時間半に満たないので片側にまとめて欲しかった。まあそうすると、特典映像の存在に気づかれない可能性が高いので、やむを得ぬといったところでしょうか。

 作品自体は、あと何度か見返したいなあと思わせる代物でありました。ぼくはまだこの映画のよさを十分に味わい切れていない気がします。違う言い方をすると、この作品から発されるエネルギーを受け止め切れていないというか。こういう感覚はなかなかあるものではありません。

「最後の西部劇」とも評される本作品は1913年のアメリカ、メキシコが舞台となっています。強盗団と、彼らを捕まえれば無罪放免にすると言われている犯罪者たちと、それからメキシコの政府軍などが織りなす物語で、強盗団の逃走劇、彼らと政府軍とのやりとりなどが大変に高濃度で活写されています。

 先日観た『プライベートライアン』もそうだったように、本作も序盤、終盤に銃撃戦が展開しますが、こちらの描写は『プライベートライアン』ともまた違うすさまじさを帯びていました。簡単に言うと、銃撃戦を観ている間、まったく情報を整理できないんです。一秒、もしくは半秒に満たないカットを怒濤のごとく重ねており、何が起こっているのかを捉える間にすぐ次の、あるいは次の次のカットに移るため、観ている間、起こっている出来事を意味に変換できない。「あっ、誰々がやられたぞ」とかそのように捉えられるのは後になってからで、その瞬間はただ場面展開を追うのがやっとなのです。観る側はただ無心で釘付けにされるのであり、これこそがまさに「圧倒的な」映像描写と呼ぶべきものでしょう。人は普通、ものを知覚し、知覚したものを理解するというプロセスを経てそのものを捉えるわけですが、この映画はその余裕を与えないんです。状況が理解できるのは、すべてが終わった後になってからで、観ている間はただ呆然と観続けるほかない。こういうのもやはり映像の強みですね。意味や理解を経ないままに観客にぶつけるというのは文章には不可能です。

 ぼくにとって最高に印象的だったのはしかし、あの銃撃戦ではありません。最後、主人公の強盗団が捉えられた仲間を助けに行くのですが、このとき目の前で、敵のドンによってその仲間が殺されてしまいます。すると反射的に主人公たちがそのドンを撃つのですが、その直後の間。この間はもう映画史に燦然と輝く間と言っていいでしょう。以前、ソダーバーグの『セックスと嘘とビデオテープ』でも良質な間に出会いましたが、それよりもずっと上。これほどに豊かなる間をぼくは他に知りません。主人公の周りには敵の軍隊が控えているのですが、この場にいる誰もが、何が起こったのかわからなくなっているんです。まさかドンが殺されるとは、という驚きで皆が自失するあの一瞬、そして、後に撮られる『ポセイドン・アドベンチャー』でも好演したアーネスト・ボーグナインの薄笑い。おい、もう取り返しがつかねえぞ、というあの薄笑い。この後で銃撃戦に突入します。あっぱれ。

 そうした点でなるほどこれはすさまじい映画であります。
 そのほか印象深いところとして、このロケーションが素晴らしいところです。メキシコの村やアグア・ベルデはファンタジーの世界にも見えました。猥雑さとファンタジーが同居しているあのロケーションは不思議です。荒野の場面のよさは言うまでもないところです。この映画はサービス精神がありますね。活劇を盛り上げるための策をあれこれと練っており、機関車乗っ取りのシーンや橋の爆破場面等々、悦をもたらすスペクタクルをつくっています。

それとやはり、これは時代的な演出なのですね。人々を重く描きすぎていません。囚われのエンジェルがもうめちゃくちゃな目にあうのですが、このときも決してしっとりさせず、きわめて冷徹な距離感を置いており、湿っぽいBGMなどなく、流れているのは盛りの囃子です。ただその分、人々の関係性がもうひとつわからないところもありました。一人汚いじじいがいるのですが、このじじいが糞をしようとしたとき、ずっと同行してきた仲間が火のついたダイナマイトを投げます。じじいが気づいたからよかったものの、あれは冗談にならない。ちょっと場所が悪ければ死んでしまいます。え、何してんの、と思った場面です。このじじいはじじいで、最後別の連中と合流して終わるのですが、主人公たちの死には何の感慨も抱いていない様子です。嫌われていたにしても、アーネスト・ボーグナインやウィリアム・ホールデンには別に嫌われていなかった様子だし、もうちょっとなんかあるんちゃうんけ、というのはあります。それとも、それすらも描かない冷たさやハードボイルドさ、ということなのでしょうか。
 説明が足りていない感じもします。マパッチ将軍が偉いのはわかるのだけれど、どれくらいの軍勢を持っているのか、どれくらい強大な組織なのか、あるいは小さいものにすぎないのか、もうひとつよくわからなかった。言うとすればその辺でしょうか。

 先にも述べたように、ぼくはまだ完璧に味わい切れていない感じがします。ただ圧倒されるばかりの一度目の出会いといったところです。なので、多分、この先何度か観ることがあると思いますね。観るたびに発見のありそうな映画です。
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by karasmoker | 2009-03-31 01:28 | 洋画 | Comments(0)
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