『復讐するは我にあり』 今村昌平 1979

一本の映画としてはすごいのですが、言いたいことがないでもありません。
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タイトルに「復讐」とあって、この前に『復讐者に憐れみを』を観ていたので、日韓の復讐劇の比較ができるかな、と思って観てみれば、これはまったくもってそうした作品ではありませんでした。実際に存在した連続殺人犯の軌跡をもとにしたもので、今村昌平にとって約十年ぶりの劇映画だったそうです。

 役者が嫌いになりドキュメンタリーなどに向かっていたそうですが、横浜映画専門学院(現・日本映画学校)を開設し、生徒の指導などを行う中で再び劇映画に向かう気持ちが生じ、本作の制作にこぎつけたようです。そしてこの映画では役者の存在感がすさまじくありました。主人公の緒形拳はじめ、倍賞美津子、三國連太郎など、もう本当にすんごい名演を果たしているのです。

 緒形拳扮する榎津巌がまあ言わばヤクザもののような存在で、その妻が倍賞美津子、榎津の父親が三國連太郎なのですが、倍賞美津子の佇まいはまさしく女優のそれであり、表情のつくりかたが絶品で、榎津に疲れ果てる妻の役を見事に演じており、いやはや先ほどから「名演」「絶品」「見事」などいつものように紋切り型の賛美しかしておらぬわけですが、実際に観てもらえばなるほどそうした言葉がまさしく当てはまるのがわかるはずで、この倍賞美津子が義父である三國連太郎と危うい関係になるところなどはこの映画にひとつの綾をつけているわけですが、三國連太郎の父親的威圧感と老人的疲労感が混在したような風合いは緒形拳の榎津巌と対峙する存在として非常にバランスがよく、こんなにも年老いた父親というのをばっちり演じた役者というのは記憶の限り他におりません。

 話の筋立て自体はまず、榎津が警察に捕まった場面から始まり、それに至る経過を描いているのですが、榎津が殺人を犯した場面などはなんと実際の殺人現場で撮影されたとのことです。ただ、ぼくはそういうのは嫌いです。少なくとも、それを売り文句にしたりとか、売り文句とは言わぬまでもおおっぴらにすべきではないと思います。役者、あるいは映画に何事かを宿らせる試みとしてそれをしたいのはわかりますが、それは不必要なことじゃないでしょうか。実際の戦地で戦争シーンを、とかいうのともまた違うと思うんです。そこで殺された人間は、自分の巻き込まれた悲劇を模倣されるわけです。被害者遺族にしても辛いはずで、そうした気持ちを踏み越えてまで実際の現場で撮影することに何の映画的意味があるのか。ぼくにはまったくわからない。DVDの特典映像でよくわからない女がロケ地巡りをしているのもわからない。あれは会社のおえらいさんのカキタレだと思われます。しかも爽やかに温泉地などを紹介しています。ある意味、実在の犯人並に頭のおかしい映像です。実在の事件をもとにするなと言っているのではもちろんありません。ただ、その際にはそれなりの配慮は絶対に要るだろうということです。含羞というか申し訳なさというか、あるいは事件に対する解釈のようなものがなくてはならないはずなのです。

 榎津の逃亡劇がこの話のメインになりますが、人当たりもよくコミカルなこの男の有様は観ている分には楽しいというか、キャラクターとしてはいいと思います。その分に残忍さが際だつし、この男の底知れない感じは浮き出てきます。滞在した旅館(民宿)の女将と仲良くなるのですが、この女を殺してしまうシーンなどはすごいです。自分に心底惚れているな、とわかったときにその女を殺してしまう。この辺の不条理性と言うか、どうやっても心根で他人を受け入れられずに生きる男の暗さなどは、さすが緒形拳、見事に表現されています。ただ、ぼくとしては父親への憎悪のようなものをもっと浮き彫りにしてほしかったというのはあります。三國連太郎演ずる父親が憎いのだ、というのがもうちょっとほしいです。ちょっとだれる場面もないではない。榎津の人間性やうまく立ち回る様子などを細かく描いているのですが、彼が父親を憎まずにはいられないのだという部分がそのくせ弱い。カトリックの人間だという設定もそれほど活きていません。この映画のタイトルである『復讐するは我にあり』は聖書の一節の言葉ですが、このタイトルを助けるための設定という感じがどうしてもしてしまう。「口だけカトリック」みたいな感じです。いや、榎津巌はまさにその「口だけカトリック」的な部分を嫌ったのかもしれませんが、それにしても描き方として実に弱いです。普通に、老いた父親としているだけで十分です。

 どうしようもない男の話、というのはぼくのすごく好きな分野です。町田康の『告白』しかり、デ・パルマの『スカーフェイス』しかり、カップルで言えばボニーアンドクライド、アーサー・ペンの『俺たちに明日はない』しかり。でも、その分この映画の描き方にはそこまで強い思い入れは持てません。
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by karasmoker | 2009-04-15 01:37 | 邦画 | Comments(0)
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