『ブリジット・ジョーンズの日記』 シャロン・マグワイア 2001

 大きさに弁えのある点で、好ましいです。
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 寝ようと思ったら意味もなく目が冴え、映画評でも書いてやり過ごします。
 ぼくの映画の好みで言うと、「いわゆる典型的なラブストーリー」というのは中心から大きく逸れます。好きよ嫌いよ惚れた腫れたに一喜一憂する話は普段積極的に観ようと思わないし、これまで評してきた映画においても純粋にラブストーリーが主題となるものは少ないはずです(あっ、つい最近は『恋空』がありますね、でもあれは「いわゆるラブストーリー」ではなく、登場人物の内面を激しく破壊しているポストモダンの前衛映画です)。

 まああれこれ観ようという気持ちになっているのもあって、借りてきたのが『ブリジット・ジョーンズの日記』です。続編も作られた結構有名な映画ですね。三十二にして独身、主人公の冴えないOL、レネー・セルウィガー演ずるブリジット・ジョーンズが主人公で、話はといえばまあ、要するに惚れた腫れたするお話です。

 日記という体裁を取り、ナラタージュを全編に散りばめるわけですが、編集がうまくてテンポがあり、楽しく観られました。ナラタージュをかますときには語りが押しつけがましくなりすぎぬよう、特にスピーディに編集してダイジェスト的に見せたり、音楽を背後に流したりするなどの工夫が観られ、映画の濃度を高めることにきちんと気を配ってくれています。

 三十台のOLの等身大的恋愛コメディですから、土台とてつもない傑作とはなりにくいわけですが、このサイズの話を形作るといううえでは過不足がなく、演出面でも適度なバランスを保っています。この映画は『キャリー』よろしく、主人公のキャスティングが適切と感じました。この手の映画はもう、主人公を好きになれるかどうかに半分以上の比重がかかるものですが、このレネー・セルヴィガーという女優、そしてブリジット・ジョーンズのキャラクターはよかったです。冒頭はちょっと女子大生っぽくもあるんです。でも、すぐにそうじゃない感じ、三十代の人だなという感じが出てきて役柄のサイズに合っているし、美しすぎずブス過ぎず、とりわけいいのはあのバニーガールの場面です。仮装パーティだと勘違いして、バニーガールに扮するシーンがあるのですが、あのときのねえ、肥満体質もあっての、あの脇の肉がたるんでいる感じ。

 映画とはぜんぜん関係ない話ですが、いわゆる熟女ものが受ける理由は、つまりあの脇の肉のたるみにあるのです。女性らしくありたい、美しくありたい、若々しくありたい、という真摯な願いが、それでも経年の肉体的疲弊に負け、ちょっと腐りかけているところ(なんと失礼な表現!)。その忍び寄る腐敗の影はつまり哀しみであり、その哀しさ、切なさが、若さ漲り希望溢れるぴちぴちギャルには表出不可能な熟女的魅力、エロスを醸すわけであります(明け方に何を書いているのだぼくは)。

 ちょっとおドジな、という設定はコメディにおける笑いで重要なさじ加減を必要としますが、このコメディの笑いは好きな部類です。いや、大爆笑できるようなポイントはないです。でも、ちょっとくすっとしてしまうところはちゃんとつくられている。滑っているところはないですし、滑った様が面白い、というところもちゃんとしている。好ましいのは、これ見よがしな笑いがあまりないところです。現代の日本は幾多のコメディアンが耕してきたおかげで、結構笑いのレベルがあがっていると思うのですが、それでもたとえば『キサラギ』みたいな映画ではこれ見よがしな笑い、「はい、今面白いことを言いましたよ~」的な間をつくってしまうこともある(これは現代和製コメディで一番観たくないもののひとつなんです)。『ブリジット・ジョーンズ』はその点、間を弁えている。笑いにおいて大事な間は、面白いことが起こった後の間。ここを活かせるかどうかで笑いは決まります。ツッコミの善し悪しにおいて大変重要な場所です。この映画は面白い状況が起こった後、わりとすぐに別のカット、シーンに移る。編集の思い切りの良さが好ましかったですね。別に、すごく奇をてらった笑いではないですよ。むしろ逆に結構ベタベタです。でも、ベタベタの使い方が映画の大きさに見合っているというか、押しつけがましくない。

 本筋のラブストーリーですが、まあびっくりするような展開はさほど起こりません。ブリジットをめぐる二人の男がいて、彼らの過去について「えっ、そうだったの!」な仕掛けは用意されていますが、映画を観ている限り、彼らがどんな人間なのかは自ずとわかってくるので、あの仕掛けは別に大した驚きをもたらしません。でも、この二人の格闘シーンはいいです。ぐずぐずの格闘がいい。この監督はええ感じにしよるなあ。ぜんぜん喧嘩になれていないインテリ二人の喧嘩、そのぐずぐずさが出ていていいです。ラストの仕掛けはいいんじゃないでしょうか、映画に見合った適度なびっくり感です。

 時間的にもちょうどいいですし、気軽に観られる作品です。三十代の冴えないOLにあまり、というかほとんど、というかほぼまったく思い入れがないぼくが面白く感じるのだから、もっとこの映画を推す人はたくさんいるでしょうね(逆の場合もしかりですが)。設定と作品の大きさが見合っており、やれることをきちんとやっている作品であります。
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by karasmoker | 2009-04-24 05:55 | 洋画 | Comments(0)
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