『かもめ食堂』 荻上直子 2006

どこまでがマジなのだ? という困惑。まさか無邪気に愛でるのか?
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 こういう作品についてはもう出会うタイミングというか、こちらの心理状態で大きく左右してしまうところがあります。今時のぼくはちょっと辛かったですね。「何も起こらない、起こさない」という物語的美徳は決して嫌いではないけれども、あまり好きにはなれなかった。

 フィンランドといえばぼくにとってはもちろんアキ・カウリスマキですが、彼が撮る街並みと違って綺麗さに充ち満ちているのは新鮮でした。カウリスマキの描くフィンランドって、もうどうしようもないところみたいに見えるんですが、この映画のフィンランドは本当に綺麗です。本当に綺麗だからあまり面白くないというのもあります。あざとい感じがしますね、絶対OL受けするのがわかっているようなつくりです。あるいは本気でこの綺麗さを愛でているのか。どちらにせよ、好きではないんです。シナモン・ロールをつくろう、ああ、おいしいわ、みたいなあの辺のくだりとか、なんだかなあ、シナモン・ロールってもの自体が別に日本でも珍しくないし、フィンランドだからこその記号が欲しいんです。あんな爽やかで綺麗な食堂でシナモン・ロールを食べてみたいわ、と観客に思わせたいのかバカ野郎、と思ってしまいます(ああそうさ、ぼくがひねくれているのさ)。

 カウリスマキといえば、マルック・ペルトラが出ていました。最初出てきたとき、「なんかカウリスマキ映画っぽい人が出てきたぞ」と思って、どこかで観たぞ、ああ、『過去のない男』の人だ! と思ったらまさにそうで、これはちょっと驚きました。彼の出てくるくだりはカウリスマキっぽい感じがありますが、まあそれは既にカウリスマキ作品で観ていますし、味わいは向こうの方があるわけで、ちょっと日和った感じも否めません。

 小林聡美、片桐はいり、もたいまさこが主軸となるわけですが、片桐はいりは本当に面白い顔ですねえ。これはずるいです。片桐はいりがアップになるだけでもう笑いになります。この映画で言えば、もうちょっと普通の人をキャスティングしてもよさそうなものですが、あえてここに片桐はいり、というその発想は嫌いではありません。もたいまさこもインパクトがすごいですが、あのメンツだと「かもめ食堂」が変な場所になりますね。もし客としてふらっと入ったら、「どういう人たちなんや」と気になること請け合いです。「奥で料理してるあの人はちょっと綺麗なあ、せやけどあとの二人がきっついなあ」と思わされることでしょう。その意味であのおにぎりは深刻です。小林聡美のおにぎりは食べたいですが、あとの二人はちょいと願い下げです(なんて失礼な思想だ)。

 小林聡美の演技はちょっと鼻につきました。でもこれは小林聡美が悪いというより、演出的なところでの嫌悪感ですね。いかにも芝居っぽいんです。「台本が見える」というのは演技演出のうえで最も駄目なもののひとつだと思うんですが、この小林聡美、そして片桐はいりの場合、台本が見えます。原作の小説があるようですが、そこからそのまま台詞を持ってきたところもいくつかあるのでしょう。小説的にはセーフでも映画的にアウトな台詞回しが散見されました。舞台出身か、それともCFの人かな、と思いきや、監督は映画畑を進んできた人のようで、だとすると癖ではなく、あえてやっていると見るべきなのでしょうか。アクションの少ない劇ですから当然会話に比重がかかる。だとすれば会話における演出は当然一番くらいに大事なものになるし、現場でも重点的に演出可能な場面。にもかかわらず、「台本が見える」=「映画が映画であることが現前する」=「虚構性が浮き立つ」ような会話が生まれている。無邪気にやってそうなっているなら単に駄目だし、もし理由があるのなら(あってくれないと困るのですが)それは一体何なのか。

 ここがぼくの困惑のしどころで、思考を先に進めてよいものかどうか迷う場所なんです。合気道の膝行とか部屋の感じとか、もたいまさこの森林ときのこのくだりとか、マジでやってるのでしょうか。シナモン・ロールとかコーヒーのおまじないのくだりはマジなのでしょうか。いや、でも、それをマジでやる人なら、片桐はいりとかもたいまさことか、どう考えても癖のある、あの透明な空間に入れるにはあまりにもインパクトの強い二人をキャスティングしないと思うんです。もっとも、それがこの映画のヒットの要因とも言えましょう。単に綺麗どころの女優を三人並べただけでは、なんかあれでしょ、どうせただのいい感じ系の映画でしょ、みたいな印象を与えかねず、その点、片桐はいり? もたいまさこ? おいおいどういうキャスティングなんだよ? という興味を持たせます。

 この映画全体の印象をたとえるなら、要はハッカのガムみたいな感じです。現代東京の猥雑なる街並みを抜け、映画館に入ってみれば、一時の清涼感を与えてくれる。噛めば噛むほど味わいが出てくる、かもしれない。でも、ガムはガムなので、別にこれと言って栄養になるものでもない。ぼくはやっぱりフィンランドならアキ・カウリスマキです。
『かもめ食堂』が好きなのー、フィンランドってば素敵よねーなどという輩に対しては、てやんでい畜生、カウリスマキを観やがれ、あのどうしようもねえカスみてえな登場人物が醸す底知れねえ映画的興奮を味わいやがれ、と言ってやりましょう。
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by karasmoker | 2009-04-28 00:19 | 邦画 | Comments(0)
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