『櫻の園』 中原俊 1990

リアルさと映画的豊かさを両立するバランス。学校ムービーにおける「単なるリアルさ」を超えた、希有な作品。
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学校が舞台のものなんて沢山あるわけですが、考えてみるに女子校ものというのはあまり観た覚えがありません。結構ネタになりそうなトピックですが、映画、ドラマを含めても女子校の内部のみで完成される作品というのは少ないんじゃないでしょうか。ぼくには絶対描けない世界なので、いろいろと観てみたいと思うのですが。

 さて、『櫻の園』は女子校が舞台です。チェーホフの『櫻の園』を演ずる演劇部の、朝から昼頃までのごく短い時間を描いた作品です。別にびっくりするような出来事は起こらないのですが、かなり魅せます。巧みだと思いました。

 女子たちの会話のタッチが丁度いい加減なんです。かと言って単に、自然にアドリブで喋らせているわけでは全くないと思うんです。ここのバランスの取り方がすごいなあと思います。普通の何気ない会話と、芝居がかった台詞の調和。ああ、これが映画における正しい演出だなあとつくづく思わされる。単に芝居っぽくすれば自然な女子高生の立ち振る舞いが活きない、反面その自然な振る舞いを活かそうとアドリブで進ませれば今度は平板化し、映画的な芝居の演出を施せない。この監督のうまいのはたとえば、芝居っぽい台詞を言わせてカットもそれっぽくして、その直後にふっと呟きのような言葉を別の役者に吐かせたり、あるいは女子高生たちのはしゃぐ動き、何気ない陽気な動きをうまく芝居的な仕草に落とし込んだり、きわめて他愛のない会話の流れを映す際も決してカメラがその流れに飲まれず、あえてカメラを固定してその他愛ない会話をきちんと映したり、その一方で多くの演劇部員が共存している様を描くために無駄にカメラを動かさず引きの画で撮ったり、非常に学ぶところが大きいというか、ああ、こうやればいいのか、という感じ。ただ、易々と真似はできないレベルにある。これは女子校の女子たちを写し撮る上で、映画的に落とし込む上で、相当レベルの高い表現の方法だと感じました。

 これを安易に真似するとおそらく、ただの平板な女子高生の姿になってしまう。もしくは過度にファンタジックな様相を呈する。どちらにも傾かないところに映画的な醍醐味がある。この映画はそれをできていると感じました。そのバランスを保つための緊張感が映画に漲っているため、格式のある表現として成立しています。学校ものは多く撮られていますが、この作品ほど映画的格式とリアリティの調和が取れているものは観たことがありません。

 あと、役者の美醜バランスがいいです。これは学校ムービーで大事なところです。アイドル的に可愛すぎてもダメだし、不細工を揃えるのも作為的で行けない。約二十年前の作品だからいいのかもしれません。今観ると、美醜バランスが丁度いいんです。適度に可愛らしいんです。今なんかだと、どうしても可愛い子はとても可愛くなってしまいます。金八先生なんかでも、「おいおいこりゃ可愛すぎるよ! おい、こいつはセクシーすぎるよ!」というやつがいたり、「おいおい、いくらなんでもブスが過ぎるよ! そんなあからさまなブスキャラは要らないよ!」というのが毎回ですが、この映画はその点のバランスも非常にいい。

そしてこの学校ムービーにおけるもうひとつの巧みは、それぞれのキャラ立てです。それぞれの人物がきちんと実在感があって、その他大勢感が少ない。もちろん全員にスポットは当てられません。顔も思い出せない人々はたくさんいるし、名前だってよくわからない。でも、その他大勢のガヤになっていないんです。そうすると、映画全体に不思議な豪華感が生まれてきます。ああ、これはこいつの物語でもあるな、ここはこいつの物語やな、というのが出てくるし、たとえ物語がない連中であっても、しっかり映画を支える存在になっています。それぞれが絡まない距離感も適切です。

 とにかくバランスの点で特筆すべき映画です。秀逸な群像の描き方です。

 もっとも、すべてがいいわけでもなく、終盤になると思いの外失速感がある。丁度いい遅さで進んでいた話が、端的に要らないシーンによって「遅いな」と感じるレベルに堕してしまう場面もあります。作り手には意味があるんでしょうけれど、観ている側としては要らないと思う場面、あるいは要らない長さの場面などもあります。すごくいい空気ができている分だけ、残念な気もします。

 エンドロールを見る限り、名前と顔が一致する人は一人もいませんでした。脇役などで今も活躍している人は多いようですが、誰もがすぐにわかる役者というのはほとんどいません。つみきみほという人を名前で知っているくらいです(この映画のつみきみほは『パッチギ!!』あたりの頃の真木よう子に大変似ています)。この女子校ムービーはアイドル的悦びもあるわけでして、ぼくは三野輪有紀という人が好きですね。ああいう少年っぽさのある子が好きなのです(だから何なんだ)。役者の個人名が浮かばない分、純粋な虚構世界を愉しむことができました。

 話自体は別に何ということもないですし、伏線的なエピソードが回収されることもないし、「なんで出てきたんや」というまったく意味のない存在もいるわけですが、この映画が持っているすごいバランス感覚というその一点において、この映画をお薦めしたいと思います。
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by karasmoker | 2009-05-13 03:36 | 邦画 | Comments(0)
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