『ミリオンダラー・ベイビー』 クリント・イーストウッド 2004

端整すぎて、愛せない。
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最近作の『グラン・トリノ』の評判がよいようですね。ぼくはこれまであまりイーストウッド作品には触れてこず、せいぜい『許されざる者』や硫黄島二部作程度、主演作でいえば『ダーティ・ハリー』とかそれくらいです。それほどイーストウッドという人には惹かれないんです。

 ぼくが好きになる監督というと、たとえば園子温、ブライアン・デ・パルマ、サム・ペキンパーなどがいて、そのほかにも一、二作しか観ていないけれど間違いなく好きになれる監督というのもたくさんいます。映像技巧を駆使した人たちが好きなのか、と言われればそうとも限らず、たとえばアキ・カウリスマキやキム・ギドクがそうです。反面、嫌いだなあという監督はテリー・ギリアム、小津安二郎、青山真治などがそうです。好きも嫌いも通じて言えることは、表現に過剰さがあることです。いびつさ、と言ってもいいかもしれません。うわあ、いびつな表現だなあと感じ、そのいびつさを愛でられるかどうかで好き嫌いが決まってきます。園子温やデ・パルマ、ギリアムのいびつさは一目でわかるとしても、カウリスマキや小津に対する「いびつ」という言い方は変に思われるかも知れません。しかし、彼らの表現は間違いなくいびつです。詳述は避けますが、どちらも異常なほどに静物的であるがゆえ、そこには現実とは異なる映画的ないびつさが表れています。

 本作を観て感じることとして、イーストウッド監督にはいびつさが見いだせないんです。違う言い方をすると、きわめて良心的な監督とも言えそうです。おかしなことをしない人じゃないでしょうか。「優等生」というのとも違うんです。なんというか、すごくきちんとしているやつ。勉強も遊びもきちんとしているやつ。誰からも嫌われないし、皆と適切に距離感を持って好かれているやつ。そんな感じがあります。園子温だのペキンパーだのはもうめちゃくちゃですよ。先生の頭をどつくわ土足で学校の中歩き回るわ、そのくせテストではいい点を取るわ妙に目がくりくりしているわ、よくわからないやつなんです。だから好きなんですね。イーストウッドはちゃんとしています。ちゃんとしすぎて過剰さがなくて、ゆえにつまらない感じを拭えないんです。

 本作にしても、別に悪いとは思わないんですが、いいとも思わない。でも、間違いなくきちんとしている。撮り方は丁寧ですし、映画を勉強しようと本気で思ったら、この監督の作品はかなり参考になる要素に満ちているんじゃないでしょうか、中道を知るという意味で。きっと確実に信頼の置ける映画監督なんです。だからいてもらうべき人なんです。ただ、友達になろうとは思えない人です(なにさま表現ここにきわまる)。

本作はボクサーの女マギー(ヒラリー・スワンク)とそれを支える老トレーナーのフランキー(クリント・イーストウッド)の話ですが、ぼくはこのどちらにも感情移入できなかった。だから結局終盤、「どうでもええわ」になった。マギーにしろフランキーにしろ、すごく真面目なんですよ。悪いところのない人たちですよ。でも、かわいげがないというか、ああ、こいつらのこと好きやなあという部分がないんです。それならぼくはデンジャーという青年のほうがずっと好きですね。どうしようもない馬鹿だけど、愛せるんです。

 なんかすっごくちゃんとしているなあと思いました。だからわかりやすい悪役を持ってきて対比するしかないんですよ。この二人を清廉潔白にした分、こいつらが純粋にひどい目に合う形をとるほかないんですよ。だから面白くないんだと思います。

 マギーやフランキーの格好悪いところを見たいんですよ。あるいは小狡くて、汚い部分も見たいし、そうでなくたって弱いところ、馬鹿だなあこいつらはというところを見たいんですよ。貧乏のくだりはあれじゃあ甘いですよ。もっと貧乏でいいじゃないですか。その過剰がまさにいびつさで、そのいびつさに「愛のフック」(愛さずにはいられぬとっかかり)が宿るんです。でも、この二人はかなり透明なんです。色がない。いや、演出の不備だとは思いません。繰り返しているとおり、ちゃんとはしています。だからあの結末に感涙する人もいるんでしょう、きっと。ぼくの場合、この二人に何の愛着も湧かなかった。

 いびつさ、をキーワードにすると、たとえばイーストウッドは「クールすぎる」という意味でいびつかもしれません。最後は泣いてくれよ! と思います。そこはもうぼろっぼろでくしゃっくしゃになるまで、立ち上がれないくらいまで泣いてええんと違うの? そこがなんか、クールなんですねえ。透明、と感じるのはそういうところで、これではこの人を愛せないですよ。ずうっといびつさがなくて、最後はいびつなほどクール、となられても、それならおまえはぜんぜんおもろないやつやな! と思わされます。

 うん、悪いとは思わないと書きながら悪態をついてしまいました。いや、悪くはないんです(しつこい)。だから簡単に穏当に言うと、ぼくにはぜんぜんあわなかった、ということなんですね、結局。
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by karasmoker | 2009-05-16 00:29 | 洋画 | Comments(0)
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