『狂い咲きサンダーロード』 石井聰互 1980

 これはまさに監督自身の狂い咲き。
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 石井聰互はこれを、大学の卒業制作としてつくったそうです。これが大学の卒業制作だって!? おそらくはあらゆる表現のうちで、今現在までに至っても、史上最強の卒業制作と言えましょう。いたく感銘を受け、DVDボックスまで買ってしまいましたよ!(それにしても、何故ボックスには『爆裂都市』が入っていないのでしょうか。いまだ観られずにいます。誰か理由を教えてください。)

 不良たちの争いをモチーフとしていますが、実際は山田辰夫扮するジンという男の戦いに焦点を当てています。この山田辰夫がすごい! とにかく命知らずの男で、もう無茶苦茶に暴れ回ります。この頃の日本映画にはすごいエネルギー、あるいは魅力を持った主人公が数多く出てきますね。長谷川和彦の『青春の殺人者』(1976)なら水谷豊、『太陽を盗んだ男』(1979)なら沢田研二、前に述べた今村昌平『復讐するは我にあり』(1979)の緒形拳、そしてなんと言ってもこの頃のスターには、松田優作がいます。日本ではかつて五社体制の頃、各社専属のスター俳優がいたわけですが、それが崩壊した後の時代でも、このようにすごい魅力を放つ役者がおり、またそうした役者を活かせる映画がばきばきつくられまくっていたわけですね。今はどうでしょうねえ。役者が香り立つ映画ってなくなっていますねえ。せいぜいバラエティに出てへらへら宣伝してろ馬鹿! と言いたくなりますねえ。そうでなくても、映画に沢山出てバラエティに出ないような人でも、たとえば浅野忠信とか、オダギリジョーとか、加瀬亮とか、どうも薄口の人、もしくは「一癖ある俺」的な人ばかりです。エネルギッシュな人がいないですねえ。窪塚洋介に大変期待していたぼくとしては、彼が俳優業をほとんどやらなくなったことがとても残念です。

 山田辰夫の顔立ちが本当に狂犬の相貌なんです。ああ、向こう見ずな男だなあという顔。何十人の不良とたった数人で戦わなくちゃ行けないというときでも、こいつは一貫して一切怯まないんです。もう四六時中アドレナリン出っぱなしみたいなキャラクターで、もうどうしようもないわけです。で、ぼくにとってさらに嬉しいのは、この山田辰夫が恋愛などに現を抜かさないことです。セックスはしても恋愛の描写は一切無い。恋愛の描写って必然的に、こいつは対話可能な存在なのだな、という描写になるんです。恋愛があると、どんなに暴れても、なんか人を愛するってこともわかっている、優しさもある男なんだな、と観客に伝わってしまうわけです。でもこの山田辰夫のジンはそんな側面をまったく見せず、とにかく暴れまくる。だから怖いんです。ここが実に潔いです。ああ、孤独なやつだな、そして孤独だってことを自分ではよくわかってないんだな、というところに大変好感が持てます。

 ものすんごく勢い重視の映画で、話の筋自体は無茶苦茶と言えば無茶苦茶。面白優先型です。すごい詰め込み方ですね。とにかく面白ければ何でもあり、と言った具合で、クライマックスはもう日本映画史上最高級の炸裂ぶりではないでしょうか。おそらく石井聰互はサム・ペキンパーが大好きで、この映画を撮るときにも影響を受けていると思います。少人数で大集団相手に戦いに行くところとか、銃撃戦のスピード感とか、『ワイルドバンチ』ですもん。『逆噴射家族』は『わらの犬』ですね。終盤、あの街並みがいいですね。あれはどこの街なのでしょうか。日本っぽくなくて、中国かロシアか、そんなようなところの街っぽい、非常に面白いロケーションです。あんな街の中で、あんな銃撃戦をするなんて、勢い大爆発です。めちゃくちゃですから、手練れの映画人ならやらない。でも、もうとにかく若さ漲る勢い、これには惚れる。圧巻。

あのジンが武装した格好は、何のパロディなのでしょう。映画に詳しい人、教えてください。明らかに何かのパロディなんですけど、何でしょうね。で、その前の、片手片足が切られるっていうのも、この映画のすごいところです。普通主人公をあの状態にはしないですもんね。普通の映画なら、主人公はなんだかんだあっても、大した傷を負わず、負ったとて回復可能なものにするじゃないですか。でも、この映画はそうじゃなくて、片手片足を切られてしまう。おいおい、大丈夫かと思わされます。最近でも『プラネット・テラー』とか『片腕マシンガール』とかありますけど、あれはその部分を兵器にするわけでしょう。でも、この映画はそこはあえて飛ばずに、あくまでも弱い部分として描くからいいわけです。だからこそ、ラストのあの少年の台詞が活きてくるわけですよ。

 細かいところも面白いですねえ。
 小林稔侍が右翼の頼れる人物として出てくるのですが、彼がホモというのが面白い。あらためて観ればなるほど、いかにもホモっぽくて、あまりのはまりぶりに笑ってしまいました。漫画みたいでした。ホモとして描かれる必要も別にないんですが。明らかにタチのほうである彼と、思い切りネコっぽい部下の対比も面白い。ああ、こいつはネコだなあと、これまたはまっている(タチ=掘るほう。ネコ=掘られるほう)。
役者で言うと、ジンのもとの兄貴分の彼女がいい。丁度いいです。すんごく丁度いいです。ああいう丁度良さは大好きですねえ。

 80年代最強の監督といって多分間違いない石井聰互ですが、90年代以降はどうなのでしょうか。大学の卒業制作であれをつくった人なら、はっきり言ってその時点ではスピルバーグや黒澤明をも超えていますよ!ものすごいやつが現れた! と映画界騒然だったはずです。でも、今の彼はあまり巨匠とはなっていません。知る人ぞ知るみたいになっていますし、石井聰互の名前はやはり80年代の作品がその代表になっている。「早熟の天才」であったのでしょうか。30、40代で芽吹く監督と違って、早くに咲きすぎた人なのでしょうか。そうならばなるほどまさに、この作品は石井聰互自身が「狂い咲き」した時代のものなのでしょう。
 
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by karasmoker | 2009-05-26 06:13 | 邦画 | Comments(0)
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