『現金に体を張れ』 スタンリー・キューブリック 1956

ラストショットの素敵さは今まで観た映画でいちばん。
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 原題『THE KILLING』。邦題の「現金」は「げんなま」と読みます。
 思えばぼくが初めてまともに意識した映画監督は、スタンリー・キューブリックでした。映画なんかぜんぜん観なかった大学時代にもキューブリックだけはなぜか結構観ていました。今のところ、『ロリータ』以降のものはすべて観ていて、ほかには『非常の罠』なども観ています。マイベストを決めるとしたら、もう一度見直す必要がありますね。『時計じかけのオレンジ』とか『フルメタルジャケット』とかは、観たのがかなり前なので、今よりもずっと見方が甘かったはずで、今観ればきっとぜんぜん違う感想が得られるでしょうから。

 さて、『現金に体を張れ』です。前回も強盗ものを扱いましたが、これも強盗の話です。競馬場での強盗を目論む人々の話で、時間軸を行ったり来たりする手法がとられています。タランティーノが初期三作で用いていましたが、この手法をうまく用いると、じらしの演出ができます。つまり、時間的にクライマックスに向かいながら、すっと過去へと反転するため、観客はその語りにじらされる。なおかつ、新情報が次々と舞い込むため、観ていて飽きないつくりが可能になるうえ、情報量を盛り込むことが可能なので説明的な役割も果たせる。日本で一番成功している例はテレビドラマ『木更津キャッツアイ』だと思います。行ったり来たり、とは違いますが、野球の攻撃における表裏の構造をうまく用いて、クライマックスの濃度を高めていた。映画版は観ていないのでなんとも言えませんが。

 強盗もの、計画ものでは、その来るべき実行までをどう見せるかが大事になりますが、この映画の場合、そこはちょっと退屈でした。結構ハードボイルド的というか、あまり余計なことが起こらず、余計な演出はなく、その分退屈さもあり、伏線が張られて心地よい、ということもあまりない。うん、強盗チーム各人の描写をしていたわりには、伏線的心地よさには欠けたかなあというのが正直なところです。伏線という物語装置にはあまりこだわっていないようですね。メンバーの一人である警官が一般市民の頼みを無視するのですが、これが後々生きてくるかと思いきや何もなかった。あのひづめのくだりはよかったですけどね。

 映画全体を通して、時代性、B級さを感じました。今ではぜんぜん通用しないであろう演出、場面も多いです。スキンヘッドのおっさんが暴れるくだりもそうだし、実際に強盗をする場面のもたつきも、警備員に見つかって咎められるシーンも、今はもう通用しないでしょう。一言で言うとかなり平板な撮り方ではあります。とはいえ、時間軸をずらしまくるという、当時としてはおそらくかなり斬新な手法をとっているので、この辺のシーンは逆にわかりやすさを第一にするというのもわかります。

 タランティーノが『レザボアドッグス』で、あるいは『パルプフィクション』のトラボルタ射殺シーンで撮った突然の銃撃、あれも時間軸ばらし手法同様、この映画を参照したものなのでしょうか。いきなり銃声が響き、一瞬で事が終わる場面があって、あそこの驚きは良質ですね。あの間男の描き方自体がさらっとしたものなので、あの場面はあれくらいタイトにまとめるのがいいというわけです。あそこでぐだぐだしないのは好感度が高いです。

 なんといってもこの映画でよかったのは終盤、そしてラストですね。終盤の札束シーンは、全体を通して映像的面白みがさほどないこの映画において光りました。ああ、ああ、ああああああああああああああ、という場面です。あれもいいし、この映画のポイントがさらに上がるのは最後の場面。今はエンドロール当たり前の時代ですが、この頃はそんなものがなく、「THE END」でぱしっと終わります。その終わり方が最も効いている例のひとつではないでしょうか。あそこで「THE END」にするのは最高に格好いいし、そのときのショットがこれまたいい。ああ、まさにこれは「THE END」だな、という終わり方。あるいは「GAME OVER」的な。あの終わり方はさすがだなあと思わされます。今のところ、終わり方、ラストショットという意味では、今までに観た映画の中で一番です。別に奇をてらったことは何もありません。きわめて普通。きわめて当たり前、きわめてわかりやすい終わり方なんですが、この王道ぶりをかませるのは格好いいです。あそこで終わる、というのは当たり前のようで意外とできない。余計な説明のない、いい終わり方でした。

『2001年』『時計じかけ』『バリー・リンドン』などの色彩溢れるキューブリック世界とはまったく違うモノクロもので、映像的な楽しみを与える作品とは違いますが、あの終盤とラストでかなりポイントが上がりました。全体を通して言えば、別に傑作、名作とは思わないんですが、ぴしっとさらっと締めているところは素敵です。
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by karasmoker | 2009-06-19 02:36 | 洋画 | Comments(0)
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