『チョコレート・ソルジャー』 ラーチェン・リムタラクーン 2009

 ヤーニンは素敵! 泥酔拳は愉快! だからこの映画はもったいない!
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 英題『Raging Phoenix』
『チョコレート・ファイター』を観て以来、二年近く公開を待ち続けた本作。しかしなんと日本ではDVDスルー。しかもDVDは発売よりも先行でレンタルが開始され、DVDを買ったお得感も乏しいのですが、そこは我らが”ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンの二作目とあって、買わずにはおられません。ジージャーというのは「タイ語ではなくタガログ語で、ヴァイオリンのこと。母親の友人のフィリピン人が名づけたらしい」です。

 主演第一作である『チョコレート・ファイター』はゼロ年代マイベストテンのひとつですが、別に「ゼロ年代」でなくてもベストテン入りさせるくらいに感じ入った作品です。あらためて振り返るに、ヤーニンはその小さな肉体をもってここ数十年の格闘アクションを総括していたとも言えるのです。
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アジア格闘アクションの大家と言えば70年代初頭に人々を熱狂させたブルース・リーがいて、その後にジャッキー・チェンが一世を風靡し、彼は実に数十年にわたってのこのジャンルを盛り上げてきました。『チョコレート・ファイター』はそんな彼らのアクションへのオマージュに溢れていたのです。

 そして目を見張るのは、映画に留まらない格闘ものへの言及でした。ブルース・リーとジャッキー・チェンが世を席巻したその後、彼らに比肩するような、日本や世界の誰もが知るようなアジアン格闘スターは生まれてきませんでした。
 しかしその一方で、人々はまったく別のジャンルで、格闘ものへの愛着を表明するようになりました。それはずばり「格闘ゲーム」「アクションゲーム」です。ファミコンから連なるゲームこそが、ぼくを含めた90年代の子供たちを熱くさせたのです。『チョコレート・ファイター』のクライマックスはファミコン的横スクロールアクションを見事に実写化したものでありました。

そして特筆すべきは、それが筋骨隆々の男性俳優によるものではなく、若い女優によって果たされたということです。このアイドルを愛でずして誰を愛でましょう。ヤーニンは格闘×少女という、もっぱら二次元でのみ成功を収めてきた偉業を成し遂げたのです。

 少女ってわりに『チョコレート・ファイター』公開時は既に24歳じゃないか、と無粋なことを言ってはいけません。映画を観たでしょう。あんなにもあどけなく、なんとクライマックスの戦闘さえも部屋着同然の格好でやってのけるというあのスタイルに萌え踊ることなくして、あるいは燃え上がることなくして、何が映画的感動でありましょう。俺たちの時代にはブルース・リーがいた、俺たちの時代はジャッキー・チェンだ、なるほどそれは大いに羨ましい、しかし、ぼくは言いたい!
「俺たちの時代には、ヤーニンがいるのだ!」

 前置きが長くなりましたがそんな彼女の二作目、『チョコレート・ソルジャー』です。タイトルだけ見れば続編のようですが、これは日本の売り手が勝手につけたものですので、まったくもって関係ありません。

 前作では知的障害を持つ少女を演じたヤーニンで、台詞も多くはありませんでしたが、本作ではメイクを一新、スタイリッシュな若者と化しています。前作とぜんぜん違う顔のヤーニンを観られたのは嬉しい限りであります。
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DVDパッケージにもあるのですが、本作では「泥酔拳」なる拳法が発揮されます。これは「HIPHOPダンス×酔拳」といういかにも外連味溢れる楽しいもので、前半のダンス的な格闘はアゲアゲの極みでした。
 時代劇の殺陣もそうですけれど、映画の中での格闘というのは、一種舞踊を見るような高揚感をもたらします。リアルかどうかは二の次であり、役者たちの身動き、そのアンサンブルが踊りやショーのような見事さを湛えるとき、観る者はアゲアゲになるのです。
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 いつ消されるかわかりませんが、ワンシーンを張っておきましょう。最初、ヤーニンの台詞に変なおっさんの声が被りますが、この動画を上げたのはぼくではないので、よくわかりません。



いかがでしょう。戦いの中に悦びを見いだすという、MGS3の「ザ・ジョイ」をも凌駕するきらめきに満ちています。ヤーニンのキュートなステップにめろめろです。ヤーニンの発する「ウイッ、ウイッ」という声を聴くたび、まるで大自然を我がものとして暴れ回る野生児のような躍動を感じるではないですか。願わくばどうかぽこちんを蹴ってもらいたい(へんたい)。あるいは頭突きをしてもらいその際に飛ぶ汗を浴びたい、唾も厭わない(根深いへんたい)。

 ヤーニンに胸躍る本作であり、それで満足と言えばもう満足なのですが、ふむ、そろそろテンションを落ち着けて内容について語りましょうか。

 ヤーニンは男に振られてやけ酒を喰らい街路を彷徨するのですが、その最中に謎の集団に誘拐されそうになります。それを男に助けられ、彼から女性を誘拐する悪の組織について聞かされます。男は自分の妻を誘拐され、彼女を救うべく組織のアジトを突き止めようとしていたのでした。ヤーニンは彼の仲間である二人の男にも出会い、彼らと行動をともにするようになります。

 言いたい文句を一言で言うと、「この脚本、この物語じゃ泥酔拳を活かせない!」ということです。

 話の目的としては、「男の妻を救い出す」「悪の組織を撲滅できればなおよし」ということなのですが、どうも変にシリアスな方向に行ってしまうんです。これがいけません。

「HIPHOPダンス×酔拳=泥酔拳」の輝きはね、その戦いに悦びがあることが肝要だと思うんです。その悦びがヤーニンの至高の笑顔をもたらしたのです。ところが、話としては、「勇み足はやめるのだ。調子に乗るな。敵は手強いのだ。深刻な事情があるのだ」という方向に持って行かれるため、HIPHOPサウンドと調和したあの舞踊が拝めなくなる。

 なんでそんなことに。案の定、クライマックスではもう泥酔拳が関係なくなるのです。ぜんぜん泥酔していないのです。いいじゃん、面白いじゃん、べろべろになりながら戦うっておもろいわけじゃん、なんでそれを捨てちゃうんだ、とがっかりなのです。

 もちろんヤーニンは跳躍の連続、蝶のように舞っては蜂のように刺してくれます。しかし、いかんせんこの見せ方が前半に及ばない。『チョコレート・ファイター』のような斬新な見せ方もない。吊り橋アクションは確かに面白かったけれど、おい、泥酔拳はどこにいったんだ。ヤーニンならではだなあという感動がないぞ。萌えに乏しすぎるぞ。
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 悪の組織は街外れの廃屋みたいなところの地下にあるのですが、いざ潜ると「どんな場所やねん」なんです。本当にショッカーのアジトみたいな、現実感ゼロの空間があるんです。それはいいんです。それは別にいいの。むしろそんな風に外連味を出していってほしいの。でもね、せっかく非現実空間を演出したのに、その方向性が面白くないんだ。「嫁さんはどこにいるんだ! 嫁さんを救い出せ!」ってノリに行っちゃうもんで、HIPHOP感ゼロになるんだ。
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泥酔拳は前半だけでした。なんでそんなことに。もっとね、普通の時でも強いけど、酒を飲んだらもっと強いっていうニュアンスがほしいわけです。「ヤーニン! 酒だ!」というノリでぽいっと酒瓶を渡し、それをぐいっとラッパ飲みで、ふうと息を吐いたときの眼力でぶち抜いてほしいのです。そういうのは肝心の終盤でまったくの皆無。普通に強い人が普通に頑張っていたのです。いや、普通じゃないよ、あの戦い方それ自体は面白いよ。でもさあ、違うじゃんかあ。
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 本作では泥酔拳うんぬんより、「二人協力プレイ」がありました。そこを観れば言い方は変わります。なるほど、ゲーム的な快楽で言えば、「二人協力プレイ」はありですからね。タッグ攻撃というのは面白かった。だったら、それで押せばよかったのに。二人で放つ技とかをもっとフィーチャーすればいいのに。この映画はそっちを結構押しているんですよ。だったらそれをこそ泥酔拳と組み合わせてくれ、そうすればもう何の文句もないのですよ。それならいっそのことHIPHOPは捨ててもいい。社交ダンスでも何でもいいから見せ方はもっとあったはずだ! と、言いたくなるのです。すっごくいい素材を使っているのに、調理法がまずい。なぜこれを煮るの? 焼けばいいのに、といったところ。
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シリアス方向を入れ込んでしまったがために、泥酔拳との食い合わせが大いに悪くなり、アゲアゲな前半からしょぼしょぼんになってしまった。『チョコレート・ファイター』もそれなりにシリアスではあったけれど、多くの見せ方を駆使して面白かった。本作のクライマックスはタイマン勝負になってくるので、殺陣の快楽も乏しくなった。タイマン勝負はリーが存分に見せてくれたのですよ。ああ、ヤーニンが酔いながら雑魚軍団をやっつける場面がもっともっと観たかったなあ、ということです。
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 前半と後半でトーンが真逆な記事になりました。しかし、ヤーニンが輝く瞬間は確かにあるのであり、今後の彼女を日本で拝むためにも、観てほしいとは思います。
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by karasmoker | 2011-10-31 00:00 | アジア | Comments(0)
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