『怒り』 李相日 2016

タイトルが全体を貫いていないと見受けます。複数スレッドの有効性に疑問。
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 吉田修一原作で、『悪人』と同じく李相日が監督。妻夫木聡、綾野剛、渡辺謙、宮崎あおい、松山ケンイチ、池脇千鶴、広瀬すず、森山未來など主役クラスの豪華キャストで、どんなもんじゃろうかと思いながら、『怒り』です。原作は未読です。
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2007年に千葉県市川で実際に起きた殺人事件が原作執筆のきっかけとなったそうで、映画冒頭では凄惨な殺害現場が提示され、これが映画全体を貫く大きなフックとなります。

 いくつものスレッドが同時並行的に描かれます。妻夫木・綾野の東京パート、渡辺・宮崎らの千葉パート、広瀬すずの沖縄パートの三つを軸に、警察捜査の進展などが織り交ぜられ、それぞれの生活や人間関係のあれやこれやが語られ、それにしても犯人はいったい誰なんだ、というのが興味を持続させる構成です。
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 2時間半近くあるのですが、結論から行くとやや肩すかし感というか、「あれ、交わらないんだ?」というのがとても大きいです。三つのパートがぜんぜん交わらないんですね。事件の犯人と思しき人間は各パートにそれぞれおり、綾野剛、松山ケンイチ、森山未來なんですけど、パートごとにまったく交わらずに終わったのが残念というか、それでいいのか、とちょっと思います。
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 物語の妙技、みたいなものをつい求めてしまうぼくとしては、「どうも三人ともが怪しいぞ、それでいてちっとも交わらないけれど……ん? もしや時間軸ずらしか? 叙述トリック的な?」くらいの想像を働かせてもいたのですがそういうわけでもなく、まして三人ではないあの人物が実は! みたいなこともなく、ああ、そうなのか、という結末。
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 事件の報道があって、たまたま同じ時期に素性不確かな出会いがあって、そこで「もしやこいつが犯人ではないか?」と疑ってしまう人間模様を描くのははわかるけれど、どうもそこの機微みたいなもんが今ひとつ有効に機能していないというか、それだったらいっそ綾野ないし松山のみに絞って2時間以下で語りきったほうが、信じることと疑うことの難しさみたいなものがはっきりと出てきたのではないか、と思うんですね。それぞれのパートがそれぞれのパートを補完し合っている要素も見出せないし、むしろこの作品については一本軸で行っていいんじゃないかと思う。
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広瀬すずパートでは沖縄の風景が描かれて、中盤では米兵によるレイプ事件が発生します。その前の段で、辺野古移設反対デモの様子が描かれるなどするのですが、この重いテーマはそれだけで一本の映画にも収まらない代物であるというのに、わりとさらっと終わってしまう印象です。ただのレイプ事件じゃなくて、わざわざ米兵のレイプにしたからには何かもっと社会的な暗喩がこめられているのかな、と思って綾野/松山パートを見つめてもそこに作用している風もなく、果たしてあの舞台が沖縄である必要があったのか、米兵レイプ事件である必要があったのかが、ぼくにはよくわからなかった。
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 いや、アイロニーはあるんです。
 本作執筆のきっかけは市川市の殺人であったそうですが、あの事件はイギリス人女性が被害者で、相当大きく報道されていた記憶があります。一方、米兵レイプ事件が起きる沖縄ではいまだに基地があり続けているし、治外法権状態があるし、レイプはその性質上、明るみに出ないわけで、ここには実に理不尽な対比がある。そこを訴える意味があるのかなとも感じるのですが、だったら冒頭の殺人は日本人夫婦ではなく、外国人女性でないと弾力的な対比がつかないわけだし、米兵レイプを織り交ぜた効果が発揮されない。そのせいで、終盤のくだりについてもキレがよくないんです。
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うん、この映画は3スレッドじゃなくてせめて2スレッドにしつつ、相互の対比を浮かばせながら「怒り」がもっと明示的になるように引き締めたほうがよかったんじゃないかな、と思ってしまいます。そうしないと犯人の内面というか、「彼」の考えがいまいちわからないんですね。わからない部分を補って想像していこう、という風にも思えない。こいつにはこいつなりの事情があったんだな、と歩み寄る気になれない。「怒り」という直接的タイトルに見合う「怒り」が果たして、綾野・松山スレッドにあったかといえば、首をひねらざるを得ません。うん、タイトルがよくわからないです。森山スレッドには「怒り」に足るものがあるんですけど、ほかの二者にはないです。だから、交わらないとわかったときの「すかされ感」が大きくなってしまいます。原作は知りませんが、あくまでこの映画を観る限りは、というところで。
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 総じて言うと、各々のパートがかなり中途半端かつ、相互に補完・影響し合うくだりもなく、物語的妙味や「怒り」の深淵みたいなものが浮かび上がってこない印象でした。吉田修一×李相日では『悪人』もありましたが、あれはあれでひどく半端な出来と見受けたし、ぼくはいい観客になれないようであります。沖縄の米兵レイプ問題には日米地位協定、基地問題含めて「怒り」を覚えている身であり、そちらに意識が引っ張られたのもありますね。うーん、よかったという方はどの辺に痺れたのか、教えてほしいです。


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by karasmoker | 2017-07-01 20:54 | 邦画 | Comments(0)
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