『新感染 ファイナル・エクスプレス』 ヨン・サンホ 2017

韓国製ゾンビ映画の代表作となるでしょう。
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 原題『부산행』 英題『Train to Busan』
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ゾンビものはゲームでも映画でもドラマでも人気ジャンルであり続ける一方、たいていのことは既にやられているわけです。本作はそんな中、電車内や駅、線路など鉄道周りに特化したゾンビ映画として勝負しています。
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 近年人気のゾンビものというと『ウォーキング・デッド』、日本でいえば『アイ・アム・ア・ヒーロー』が記憶に新しいところですが、それら先行作とも違い、一切の銃器ないし飛び道具に頼らず、無数の工夫で乗り切っているんですね。その点で、大きな差別化を果たせているように思います。「人間を視覚に捉えると襲ってくる」という設定をゾンビに施し、濡らした新聞紙をドアに貼り付けて目隠しをしたり、携帯電話を鳴らして注意を逸らしたり、トンネルを通っている間に荷物置きを匍匐移動したり、狭い車内という設定を十分に活かしている点もよいのです。
 ゼロ年代の韓流ブームとともに、韓国映画は一躍人気を博すようになりましたが、韓国系バイオレンスの強みはこの「近接戦闘」にあるんですね。ヤッパを持って暴れたり、打撃系の武器で押したり、そういう特性をきちんと引き継いでいる作品でありました。
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ここで、最近のゾンビ映画について考えてみます。
 ゾンビには大きく分けてノロノロゾンビとダッシュゾンビがいるわけですが、ダッシュゾンビの場合は「感染者」という面が強調され、本作でもまた、「感染、即、ゾンビ化」という形式を取っています。ゾンビファンの中には、「ゾンビはやっぱりノロノロだろ」という守旧派の方もおられましょうが、ぼくはダッシュのほうが好きです。というか、もはや現代においてはダッシュのほうが定番じゃないかとも思います。ダッシュのほうがわかりやすく危機を演出できるし、ノロノロはなんだか、「頑張れば逃げ切れる感」が出てしまう。
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 映画におけるゾンビ史を振り返るに、2004年というのが大きな転換点だったように思います。2004年の同時期に公開された二つの映画を考えましょう。ザック・スナイダー監督の『ドーン・オブ・ザ・デッド』、そしてエドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』です。
 前者は昔の映画のリメイク作品です。あのジョージ・A・ロメロ監督による『ゾンビ』(原題は同じ『ドーン・オブ・ザ・デッド』)のリメイクであり、ロメロがノロノロさせたゾンビを、スナイダーはダッシュに変えた。リメイク作によって、「これからの時代はダッシュが流行るぜ!」と宣言し、潮目を変えるような試みでありました。ダッシュゾンビの嚆矢は2002年、ダニー・ボイル監督の『28日後…』とも言えますけれど、あのロメロの代表作をリメイクで塗り替えた、という点において、『ドーン・オブ・ザ・デッド』は重要な作品であります。
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 そして、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のほうですが、こちらはコメディ映画としてのゾンビをつくりあげたのです。ノロノロ歩くゾンビをレコード盤のフリスビーで撃退しようとしたり、ゾンビの群れの中をゾンビの真似をして歩いて乗り切ったりと、それまで恐怖の対象だったゾンビについて、笑いの対象と捉える見方を広めた。この時点でノロノロゾンビはもはや、怖さの要素がかなり削り取られていたのです。

以後、ダッシュゾンビが増えました。『ゾンビランド』しかり『ワールド・ウォー・Z』しかり、ゲームであれば『ラスト・オブ・アス』しかり。これに対するカウンターパートとしてあの『ウォーキング・デッド』があるわけですが、シーズンが進むにつれて人間同士の戦いが白熱し、もはやザコキャラ扱いとなってしまいました。だからこそ今の時代、逆にノロノロゾンビの映画で傑作ができたら、これはかなり目立つものになるでしょうね。
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『新感染』に話を戻します。本作はダッシュゾンビ系ゆえの緊張感が漲っていました。
 とにかく逃げろ、逃げろ、逃げろの疾走感があるし、やりつくされたようなゾンビ映画にもまだまだ見せ方があるなあと敬服します。最初のゾンビにかみつかれたまま、車内の通路を歩くショットとか、車両にくっついてくる集団のショットとか、印象的な部分も多かったです。劇中のかなり長い間に渡って、緊張感を持続させることに成功している。緊張感の持続というのはアクション映画でも何であっても、とても大変なことです。
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 おおむねよくできた脚本だと思いましたが、「ためにする」部分もやや見受けられました。離ればなれになったおばあさん姉妹の妹が、なぜあのドアを開けたのか。もうちょっと説得力がある理由のほうがよかったと思うし、勇敢だったあのおじさんをゾンビとして活かしてもよかった。あのおじさんは腕力がある人物だったのだから、ゾンビになってドアをぶち壊してしまうとかね。そのほうが、先頭車両の乗客に対しての「ざまあみろ」感が出たように思います。
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ただそれも、極限状態に置かれた人間の気持ちという部分では、理解できますね。いざあの状況になったら、理性的な行動が取れるとは限らない。主人公一行は感染してるんじゃないかと疑われ、排斥されるのですが、あの辺の人間同士の冷たさみたいなのはいい描写だったと思います。ひとり、たいへん自分勝手なおっさんが出てくるんですが、あの人はあの人で、悪者じゃないんですよね。いざあのような状況におかれたとして、あのおっさんみたいにはならないと、ぼくは約束できない。あの人はあの人で生き残ろうと必死なわけで、その辺のバランスは気持ちよかった。
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 総じていうに、「韓国製ゾンビ映画」として、文句なしの代表作になったんじゃないでしょうか。鉄道周りに舞台を特化したのも正解で、密度が高くキープされていた。定番描写も随所に織り込んでいるし、ラストの着地にも間違いはない。エンターテインメント作品として、非常によくまとまった一作だと思います。


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by karasmoker | 2018-02-01 23:57 | アジア | Comments(0)
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