『サバイバルファミリー』 矢口史靖 2017

ロードムービーの肝心な部分をきちんと押さえた良作
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 ある日突然、身の回りの電気がすべて無くなってしまった世界のお話です。そこでサバイバルをしていく家族の様子が描かれ、小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかなの四人がその家族であります。

 評価の割れる作品のようなのですが、ぼくは飽かずに観られました。日本製のロードムービーをそういえば久しく観ていなかったので、その点で新鮮に感じたのもあります。
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冒頭は日常の風景が描かれるのですが、ここでの家族の具合がまずはよかったです。ああ、こんな家族の風景はどこにでもあろうなあ、というのが等身大で描かれていて、あの辺のダレ具合が丁度良い。葵わかな演ずる女子高生の娘が、おっさんからしてみると程よくむかつく塩梅で、特によいです。「可愛さに費やすエネルギーはすべて、男子と友人たちに注いでいる」かのようなあの感じ。泉澤祐希演ずる大学生もいいです。葵わかなよりも兄貴なんだけど、兄貴感が乏しい童貞大学生の感じ。深津絵里はいいのですが、もっとおばさんくさいキャスティングだと、本当はさらによかったでしょう。まあ、そうすると映画的な華がなくなってしまうので、ここら辺は仕方のないところでもあります。
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で、映画は非日常へと突入していきます。
 もしも本当に電気が無くなったら、というシミュレーション映画としてみれば、瑕疵はあるかもしれません。原発はどうなっちゃうのかとか、ひどいデマが流れて悲劇が起こるのではとか、そっちの照らし方もできるでしょう。でも、この映画ではどうでもいいところです。電気がない世界で、どう生きていけるんだ? というのがまずあって、ぼくたちの生活がいかに電気に支えられているかを照らしている。それをパニック映画でもサスペンス映画でもなく映し出す具合としては、適切な脚本ではないでしょうか。
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一般的に、映画において大事なことがあるんです。それは、「主人公が最善の選択を果たす」ということ。つまりね、主人公が間抜けで馬鹿な選択をしていると、観客は興ざめするものなんです。ここはもっとこうしろよ、それはこういうやり方があるじゃんと観ながらつっこんでしまうことになったりして、映画をつまらなく感じてしまうものです。現に、そういうレビューもネット上には散見される。
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 でもね、この映画の場合はそこが肝なんです。
 ぼくたちは今、電気のある日常にいて、あれこれと文句を言っている。こういうときはこうすればいいと、高みに立って気楽な立場で言える。でも、実際はそうじゃないよ、そううまくはいかないものだよってことです。そこを捉えずにこの映画につっこみを入れても、まるで意味がない。その対比を照らし出す点でも、面白い作品と言えるでしょう。いざその場に立ったら、できるのか? というね。最善の選択なんか、取れやしない。それでも生きていくために、懸命であること。そこが大事なんです。
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 失敗も含めて、進んでいくところに味があるのです。
 そもそも鹿児島を目指すことが最善なのかわからない。途中でいかだをつくって川を渡ろうとするけど、それが最善かどうかはやってみるまでわからない。計画的に進めよと言ってみても、計画的になんて進めるもんじゃない。
その「一寸先は闇」ぶりが貫かれているのが実に好もしいです。野犬のくだりはまさにそうですね。可愛いなと思って豚肉をあげたら……というくだり。ロードムービーとは旅を描く映画であり、ゆえにしてどこか人生のメタファ感を内包するものですが、ロードムービーとしての要点はきちんと押さえていると見受けました。岡山での一期一会なんかもそうですね。ここには人生があるなあ、と思える映画です。豚を解体していくところもいいじゃないですか。ぼくたちの生活がいかなる行為に支えられたものなのか、娯楽映画のレベルでちゃんと織り込んでいる。
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映画全体を通してみると、娯楽的な要素に充ち満ちているというわけでもないんです。そこを支えているのは、主演の小日向文世ですね。あの、頼りがいがあるんだかないんだか、頼っていいんだか悪いんだか、という絶妙の存在感。正直、子供二人はぜんぜん頼りにしている感じがないんですよ。そこがまたいいのです。それでも親父として頑張らなきゃと思い、引っ張っていこうとする様が、たいへん素晴らしい。無神経なおっさんの感じもちょっとあるしね。小日向さんはこの映画で賞か何か獲っていないんですかね。電通も絡んでいる映画なんだから、日本アカデミー賞でノミネートくらいされるべきだったと思いますね。
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観る前はそれほど期待していなかったのですが、随所に味のある作品でした。伏線の回収もぼくは好きです。特にあのカツラのくだりです。物語において最も高度なことのひとつとして、「ギャグとシリアスを絡ませる」「ギャグと悲喜こもごもを絡ませる」というのがあると思います。好例はクレヨンしんちゃんの『オトナ帝国』。あの中で出てくるヒロシの靴下の使い方は、今までに触れたあらゆる表現の中でも随一です。そういうニュアンスを持つのが、川辺とカツラのシーン。ああいうものを一個入れるだけでも、映画の出来はぐんとよくなりますね。
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 映画全体を通しての感想はそんなところです。ところで、劇中のワンシーンで藤原紀香が出てくるのですが、彼女がなぜ女優としてやっていけるのかわからない、あの人の演技プランは洋画の吹き替えでも参考にしているのか……いや、やめておきましょう。
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ひとつのロードムービーとして、よくできた一本だと思います。

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by karasmoker | 2018-05-01 03:24 | 邦画 | Comments(0)
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